医療従事者・鍼灸専門学校生とのQ&A
( 2020 / 2 / 9 都内 )
Q:松波先生、今日はわざわざさいたまからおこしくださいまして、どうもありがとうございました(ありがとうございました(他数名))。さっそくですが、今数名と同じことを話していたのですが、先生のお顔の色合があまり良くないなと。
A:そうですか…
Q:わたし達の勉強のためにも舌を診させていただけませんでしょうか?
A:いいですよ…どうぞ
Q:全体的にくすんでいて、やや青白く
A:血虚かもしれませんね…昨日患者さんが立てこんでいたため、気血の減りがはげしかったのかもしれません
Q:ご自身で治療されることも?
A:あぁ、自分で自分の体に、ということですね。もちろん
Q:どのように?
A:一般の患者さんにおこなう治療と、基本的には同じです。
Q:でも背中や腰には手が届きませんよね?
A:背中や腰には、該当するツボ(経穴)が手や足に存在しているので、そこに打てば大体
Q:とれるんですか? 痛みやコリが…
A:ええ
Q:なるほど
A:とは言っても、やっぱりじかに触って打ってほしいこともあるので、そういう時には、他の治療院に取材もかねて受けにいきます
Q:先生の院のホームページにある「治療の流れ」などを拝読したところでは、先生はいわゆる経絡治療を採用しているということでよろしいでしょうか?
A:ベースはそうだと思います
Q:そうだと思います?
A:ええ、学生時代から学会にもお世話になってきておりますので
Q:ただ、浅鍼を主とする経絡治療にしては、何と言いますか、深い鍼だったり、その本数もけっこう多いように見受けられたのですが
A:おっしゃる通りです
Q:鍼は0.16mmということで、1番鍼ですよね? 細いようですが
A:浅くて細い鍼がベースではありますが、場所によっては筋肉の深さにまで打ちますし、その打つ箇所も多い方だと思います
Q:だいたい何箇所くらい?
A:その人の身体の状態にもよりますので、一概には言えませんが、大体50-60くらいでしょうか?
Q:けっこう多いですね…
A:もっと多くなることもありますし、少なくなることもありますし、それはその人の身体の要望に応じて、口からのではなく
Q:…ちなみに、鍼は置鍼でしょうか? 単刺でしょうか?
A:それもその人の体の状況によりますので、一体の同じ身体においても毎回異なったりもするのですが、熱がこもりやすい〝陽〟のスネや肩背部の方は鍼は置かずに刺してすぐに抜く〝単刺〟で、冷えることの多い〝陰〟の手の内側や腰などには刺したまま置く〝置鍼〟にすることが多いかもしれませんね
Q:さきほどからご自身の治療がずいぶん他人事のようにもきこえてきますが…
A:あくまで他人の身体に要請されて打ったり据えたりするわけですから
Q:アドリブ的だと?
A:そうとも言っていいかもしれませんが、一応こっちの体も崩れないための型のようなものはあります
Q:患者一人の治療に大体どれくらいかけるのですか?
A:どれくらい? 時間ということですか? それとも…
Q:時間ということでいいです
A:大体40~60分くらいですかね、初診の方だと問診がかさむので、もう少しかかります
E:私は学生ではなく同業者で鍼灸師のE田と申しますが、さきほどから先生のお話を伺っていると、先生の治療院の料金は内容にしては安すぎるのではないか、と
Q:あたしたちもそれは思いました。本当に全身にハリを打つ治療で4000円って…
A:いえ、新規は初診料込みで5000円になります
Q:それでも…
A:4月からは新規の患者さんに限り一回5000円に上げさせていただきますが…(※新型コロナウイルスの影響により料金は当面据え置き ➝ 2022年1月に4500円に改定)
Q:それでも安い方かと。地域にもよるのかもしれませんが、都内で全身治療だと大体6、7000円はしているかと…
A:たしかに業界の相場としては安い方かもしれません
E:いわゆる〝クイックマッサージ〟並の料金ですよね
Q:安すぎると、かえって治療の腕に自信がないように見られることもあるんじゃ…
A:自信はありますよ
E:1万円以上の所も多いかと
A:1万円以上の治療は心がけています
Q:美容の鍼が+2000円ですよね
A:ええ、気軽に触れていただきたいと思いまして。お顔の印象が大事であるのは、老若男女問いませんから
E:言っていることは正論に感じますが、商売としてはどうかと
Q:たしかにE田さんのおっしゃるように商売としてどうかと思いますし
A:家賃等のランニングコストはあまりかかっていないのです
Q:一つが安すぎると周りに迷惑が…
A:たしかに保険適用外で4、5000円は安いかと思いますが、患者さんの側から見ると、やはりその鍼灸業界全般の料金が少々高すぎるのではと
E:高くはないでしょう。病院なんかよりもきちんと話をきき、経穴をとり、鍼を正確に刺していく。灸も据えていく。その鍼だってディスポ―ザブルの使い捨てであったり、灸のモグサだって…
A:おっしゃる通り道具の原価が増税も含めて上がってきているので、院としても値上げを検討せざるをえなかったのですが、やはり患者さん側からすると高い
Q:まぁ学生側からすると、安くはないかもしれませんが
A:患者さんのほとんどは保険証をもっていて、普段は二割や三割しか病院には負担していないので
E:あぁ、そういうことならそうでしょうが、でも鍼灸の効果のすばらしさからすると
A:すばらしさがまだわかっていない方からすると、やはり間口が狭いように感じられます。ここ数年の年間の受療率も5、6%程度と耳にしましたし
E:年間受療率…
A:1年間に何らかの形態で鍼灸を一度でも受けた人の割合で…
E:いや、受療率の意味はわかりますが…
Q:でしたら、先生はそもそもはなんで鍼灸を?
A:なんで鍼灸…
Q:この仕事をされていれば、当然よくきかれる質問だと思いますが
A:当然よくきかれるのですが、毎回その答えは違っている気がします。このその時々の〝気〟候や天〝気〟のように
Q:何をおっしゃっているのがよく…ホームページによりますと、お父様? それと弟さん? お二人とも西洋医学の方の医師なのですよね?
A:ええ、まあ…まあそういう西洋医学との対比という観点からのべるのなら、やはり東洋医学は全身を診て調整できる所が利点かと思います
J:西洋医学は部分的、局所的だと?
A: …ええ、まあ…誰です、あなたは…
J:はい
A:学生に見えていましたが…と言いますか、鍼灸学校の学生は年齢は関係なかったりするので
J:わたくしは近郊で内科医をしておりますJ川です。E田さんの紹介で
E:今日は新年会を兼ねているとのことで、僕がお誘いしたのです。僕の治療と連携していただいているクリニックの先生で、あまり急性的な症状についてはJ川先生に診てもらうことが多いもので
J:わたくしはそこまでは東洋医学に信頼を置いているわけではないのですが、たしかに西洋側ではあまりアプローチしない症状等も、東洋医学では効果が出ることはありますから
A:はい
J:逆にE田さんに紹介することもたまにあります。たとえば血液検査等でも異常がないのに不調を訴え続ける患者さんや、血圧の亢進しているものは投薬で処置しますが、亢進していないが低すぎる低血圧や、感覚鈍麻や、冷え症なども
A:鍼灸の方が効果が上がると思います。全身の一見関係ないような箇所の経穴で上げていきます
J:でも東洋医学や、ひいては代替医療ということで見ていくと、他にもたくさんありますよね
A:マッサージや、整体や、カイロプラクティックや…
J:そうです。アロマテラピーなんかもあるかな
Q:何故鍼灸なんですか?
A:その点においては、きっと温度が使えるのが利点かと
J:温度?
Q:マッサージ等ですと、良い意味でも悪い意味でもヒトの手がじかに触れます。大体35度から37度ほどの熱が伝わってしまいますが、鍼なら基本金属で温度はヒトより断然低く、逆に灸のモグサは着火によってヒトの体温より断然熱くなります
E:温度が操れるというのは、たしかに鍼灸の臨床の利点だとは思いますね、あとはすみやかに深く刺入できる
A:おっしゃる通りです。表面や表層の筋肉を触りすぎると、すぐに熱をもって、かえってだるくなることもあるので
Q:いわゆるマッサージで言うところの〝揉み返し〟みたいなことでしょうか?
A:もちろん鍼灸においても気や血が動きだすことでだるさを感じることはあるのですが、反動でさらに硬くなる〝揉み返し〟のようにはなりづらいかと、経験上
E:先生はパルスはどうお考えです?
A:パルス? あぁ
E:ええ、刺さっている鍼に電流を流す、通電療法のことです
A:ですよね
E:スポーツ選手に対する治療では用いるケースが多いですし、一般の人に対してもコリを起こしている筋肉を支配している神経にパルスを行なう治療院も多く、即効性はあるのかなと
A:効果を感じている患者さんがいるのなら、いいのではないでしょうか
E:いいのではないでしょうか?
Q:ではなぜ貴院では用いない?
A:わたし自身の身体が数回受けてみて合わなかったからというのが一番の理由ですが、わたし個人の話をすると、そもそもわたしはいわゆるスポーツ心臓という徐脈をもっています
Q:パルスに徐脈の話?
A:一定のリズムで筋肉を動かす電気の振動が、こちらの脈のリズムと合わなくて、もっていかれて矯正されるようでもあって、吐き気を催すくらいとても気持ち悪くなったことがあります
E:よっぽどですね
A:電動のリズムに合っている方ならいいでしょうが、合っていない人には細かい調整が必要でしょうし、人為的にその天然の生まれつきの脈に電気で合わせていくのは難しいかと
Q:たしかに心疾患の人には刺激が強いこともあるのかも…
A:それに局所的であるので、即効性はあっても戻りやすい印象はありますかね
Q:だから全身に散らすように
A:散らす? まぁ、はい
E:中国では顔面神経マヒなどにもパルスを用いて著効が表れているようですが
A:くり返しになりますが、効果のある人にはあるのだと思います。だから方法として少なくともこの数十年残ってきているのでしょうし
E:年々いい機器も出ているみたいですが
A:あと、やはり中国の人と日本の人は体質も異なるのだと思います
J:異なる? 同じ東洋人ですが、見た目も…
A:似てはいますが、やはり向こうは大陸で、こちらは島国です。もっと言うと向こうは乾燥帯が多く、こちらは湿潤としている地域が多いです
Q E J:え?
A:中国の方は二季的で夏と冬という極端な季節がほとんど隣り合っていて、日本の方も最近はだんだん春と秋が短くなってきているように感じますが、やはり四季
E:春夏秋冬
A:ええ、肌もきめ細かく出来ている印象だから、経絡治療や管鍼法といった日本独自の浅鍼・細鍼が流行ったのでしょう。刺さない鍉鍼も含めて
E:たしかに中国にはあまりありませんよね
Q:中国は〝鍼〟じゃなくて〝針〟と書くんですよね、注射〝針〟と同じくらい太いものも…
A:わたし自身も中国に2年留学し、その後に鍼灸師になってからも本場の中国で研修をさせていただきましたが、やはり皮膚そのものが日本人より厚い、良い意味でも悪い意味でも大らかに大ざっぱに出来ている気がします
J:日本人の方は逆に繊細で過敏…
A:そのあたりを踏まえつつも、きちんと効果は出したいし、患者さんとしても痛む箇所にきちんと施術をしてほしい
Q:だからこのような治療になった
A:そういうことです
E:なるほど
Q:貴院で苦手な症状や患者さんってありますか?
E:なかなか答えづらい質問を、また…
A:いいですよ
Q:お願いします
A:寝違えやぎっくり腰等は実は苦手だったりしますかね、もちろん効果は出やすいのですが、急性でありながら内臓や精神の方から来ていることが多く
Q:やっかいだと?
A:すぐその場で治るものも多いのですが、やはりそのバックボーンには長年の問題が絡んでいたりするので、根治には時間がかかることもあり、そこの認識が患者さんとズレることがたまにあります
Q:ズレる? 患者さんの方が理解してくれない?
A:少なくないその場での成功例によって、ぎっくり腰や寝違えには鍼灸というイメージが出回っているために、根治までは時間や回数がかかることに理解が追いつかないことも
E:自分の所も寝違えで何人か患者が離れたことがありますね
A:寝違えって、患者さんにとっては大したことなく身近に感じられているのかもしれませんが、〝寝〟ている時にのみ〝違え〟ている問題ではなく
Q:もともと原因があるということですね?
A:そこの認識のズレを理解してもらうのに時間がかかるので、苦手かもしれない、ということです
Q:なるほど
A:ぎっくり腰も同様です。きちんと回数と時間をかけて根治していかないと、寝違え同様また起こすし、なっている時点ですでに他に問題があるはずです
Q:どういった問題?
A:それはその人の体によります。丁寧に診察しなければ
Q:逆に得意な症状などは?
A:自律神経系や婦人科系はわかりやすい方かもしれませんが、得意な方はあまりもたないようにしています
Q:なぜ?
E:全部を得意にしたいとでも?
A:大体そんな感じです、どんな症状に対しても基本的には何か出来ることがあるはずですので
Q:なるほど
A:ええ、まぁそんな所で
Q:遅くまでどうもありがとうございました
E:ありがとうございました
J:わたくしもそろそろこの辺で
A:こちらこそ今日はありがとうございました


ご参考までに研修生時代に中国で学んだパルスの一、二光景(※ 当院ではパルスは行ないません)
