case.28  みんな知りたいダイエットのこと

 当院ではまずはあお向けで治療を始めていきます。中央であることを敬った〝御中〟が語源だともいう〝お腹〟からまずは治療を始めていきたいからで、おへその東西南北にそのまま平伏せてしまうくらい浅く刺したハリで、足、頭、首、肩、腕……へと治療を進めていきます。

「イタッ」という声が漏れますが、放っておきます。「イタッ」

 けっしてハリの痛みが原因ではないからで、左手の治療を終え、右手の治療に移った際にはキツッという声に移り変わります。

「キツッ」自分の利き手に自分の利き手で治療を進めていくのは至難です。「ツボが少しずれちゃうけど、左手を使うか……」

 とりあえずあお向けでの治療を終えて、一般の患者さんの場合にはここからうつ伏せになっていただくわけですが……

「ムリ、ムリ」さすがにうつ伏せで自分の背面に治療を進めていくのは〝ムリ〟ですので、ベッドの上に腰かけた座位の姿勢で治療を進めていきます。「はあ」

 ハリ灸を習い立ての鍼灸学校時代から、いわば自身の身体を実験台に週に1回程度治療をしてきていたわけですが、治療院の院長になってからは3日に1回程度の頻度になってきています。

「昨日の患者さんもきいてきていたよな……」

 患者さんに行なう前にまず自分の身を以て――という自覚ももちろん少なからずあるのですが、自分でも効果を実感してみないと分からない〝症状〟が出ているのです。

「ハリ灸が効くんですか?」自分が院長になってから一番たずねられる症状についてで、一番答えがわかっていない症状でもあります。「ダイエットに」

 院長であるわたし自身も知りたいダイエットのことです。

「本当に効くんだろうか? ダイエットにも……」

 十代・二十代の頃に比べると、運動の方が定期的におこなえていないこともあって、少し重さを感じるようになっていたタイミングでもありました。

「でも、どうやって……」

 ただ体重を落とすためだけのハリ灸というのは正直イメージがつきづらいのですが

「消化は基本だよな」まずは体の中の滞りが生じづらい状況・環境をつくり「代謝の方も上げて」

 体をあたためるためにもちょびちょび飲んでいたアルコール飲料の必要性も感じなくなるくらいの血行を巡らせて

「背中のこのツボと」

 過食にはなりづらいように自律神経を整えて

「骨盤のこのツボにも」

 一日立ち仕事で重くなっていた腰や背中、肩、首にも自己治療を加えることで、ウォーキングやジョギングにも出たくなってきています。

「よし、もう治療はいいや」

 実際にこの半年くらいは週に一度ほど閉院後に長めに歩いたり走ったりしてきたでしょうか。

「走ろう」

 ダイエットをしたいという意思はそれほど持たずに、一年半以上かけてのんびりとハリ灸と共にとりくんできてみた結果がこれです。

2020/7 

( 73キロ ( 177センチ ) )

2022/2 

( 64キロ )

 数値としては九キロほどの体重が落ちたことになりますが、これ以上はなかなか自然には落ちていかないので、ちょうどこれくらいがいいのかなと。

「ちょっと疲れが抜けづらくなっているかな」痩せすぎるのも、体調を崩しやすく……「ちょっと寒気も出てきているし……」

 またべつの治療が必要になってきますので……

「これくらいで……」

 これはダイエットの効果がハリ灸には備わっていることをみなさんに吹聴するものではなく

「でも本当に効果があるのか、どうなのか……」

 その人のお体に見合った体重にするにはきっと効果があるのだろうことを実験した――あくまで1つのcaseです。

「モデルさんみたいにはハリ灸だけではなれないだろうな」

 食事制限も併用した上でのダイエット効果を謳っている鍼灸院も少なくない印象ですが

「やっぱおいしいな」

 食事もよく摂り

「うんうん……」

 よく眠り

「……もう朝か」

 七時間の睡眠をとった後の開院までの一時間半ほどの時間を効率よく使って、今このcaseを書きつけています。

「もう28番目で」次はどんなcaseにしましょう?「もうすぐ30か」

 身体同様、文体の方も少しやせ細っているように感じることもあるので

「もうちょっと」逆にあと一、二キロ増えてもいいかもしれません。「このセリフにも重厚感があっても……」

 身軽になっていることは確かですので、次のcaseの舞台はこの治療院から離れてみるのもいいかもしれません。

「どこにしよう」

 このような状況下ですので、いっそのこと海外とかでもいいかもしれませんね。

「あるいは、時代を変えてみるとか……」

 時空の方も軽快に遡ってみたり……

「ハリもまだなかった時代の……」

 昼休みにちょっと昼寝をとった後にでもさっそく書いてみようかと。

「今もう書いちゃおっかぁ?」

 朝一番の患者さんが来るまでのあと五、六分の間にだって書けそうな気になってきているくらいで