case.46 更年期障害
「10代が6%で、20代が8%で、30代が13%で……」年に一度くらいの頻度で、当院にご来院の患者さんの年代の割合を計算したりするのですが……「40代が21%……50代が25%……」
40代・50代の患者さんがとくに当院では多くなっていますが、他院も大体こんな割合ではないでしょうか?
「今度お伝えするか」
年代別の具体的なパーセンテージを知りたいご要望をうけて出したまでのことで
「お客さん? 患者さん? の年代別の割合って、教えてもらえたりします?」というご要望を出してきたのも、40代・50代の患者さんでした。「計算してもらえます? もらえる?」
いわゆる〝更年期〟という時期にあたる患者さんで、なんだか最近とくに年代の方も気になるようになってきているみたいで……という旨のご発言もあった気がします。
「年代の方も?」
と、たしかわたしもきき返していたはずです。
「そうよ」〝そう言ったでしょ?〟という言葉が省略されたような口調だったと思います。「そう言ったでしょ?」
実際にそう発言されていたかもしれませんし……
「〝年代〟とか〝年〟とか、あんまり言わないでくださる?」
という言い方をされていたかもしれませんし……
「あんまりくり返させないでください」
あるいはこのような言い方も……
「気にしていたりもするので」
いや、このような言い方も……
「本当に」お一人ではなかったのでしょう……「いや、マジでマジで」
当院においてももっとも割合の高い年代の患者さんでしたので、複数いたのでしょう……
「なんだかこういうコミュニケーションもしんどくなってるのよ」という口調は女性だった気がしますが「とくにここ最近」
男性の方だったかもしれませんし
「はあ……」
そもそも性別にあまり頓着しないタイプの方だったかもしれません。
「これが更年期ってやつなのかしら?」
いずれにしましても、更年期というのは各々の身体の性ホルモンもろもろが減少してくる時期にあたり、女性についてはよく知られています通り、月経が閉じて無くなっていく〝閉経〟の時期にあたり
「先生、オレ、男だぜ?」
他方男性の更年期の方はあまり知られていない状況ですが
「汗が止まらなくてダラダラタラタラ……」というような女性の更年期と似た症状が出てきたりもします。「気分の浮き沈みも前よりはげしくなってきている気がするし……」
女性が男性に向かい、男性が女性に向かう ―― クロスする時期とも表すことができるかもしれません。

丸みをおびていることの多かった曲線のリズムや身体線そのものがだんだんと直線的になっていく女性と、まっすぐな直線を描いていることの多かったリズムや身体線そのものがだんだんとゆるんで曲線的になっていく男性……
「生理や月経って、こういう感じだったのかな……なんて」
などと口にする更年期の男性も実際いらっしゃいますし
「なんだかどんどん体が筋肉質になっていく感じ」というように表現される更年期の女性の方もいらっしゃいますが「スポーツ選手みたいに」
という表現は正確には誤りで、スポーツ選手の筋肉こそ血行がよく軟らかい代物だったりするのですが
「……そうですか」すぐに誤りは正さないようにします……「……面白い表現ですね」
骨ばってもくる硬直化をより速めてしまわないように、言葉の方はずっと添えておきます。
「面白いでしょ?」
ハリの方もそっと添えていることが多いのですが
「……ええ」
血管運動症状のホットフラッシュやイライラや抑うつやめまいといった更年期に代表的な症状がきわまっている時には、過剰に反応を催してしまうことがあるので
「……まあ」そっと置くように……「……痛くないですか?」
更年期のさらに先の人生の道標や矢印にもなるように……
「痛くない、痛くない」
「……痛くないままだといいですね」
「まあ、そうね」
「……次は肩から下の背骨に移りますね」
それでもこの背骨の椎間の治療は、この更年期障害の症状にはとりわけ大切に感じていて
「……棘突起のすき間にハリを入れていきます」
〝棘突起〟という名の通りの棘と棘のごとき突起の間のすき間 ―― 椎間には、きちんとハリを刺しこんでいきます。
「……一つずつ」
そもそも背骨そのものではあるので、痛がることがあまりないはずなのですが
「いたた」というように痛がる場合には、いわゆる自律神経系の症状やメンタル面の症状が濃く出ていたりします。「やっぱここは来る」
「……来ますか」
「うん、前も」
「……ですよね」
「来た」
頚椎・胸椎・腰椎という背骨の一つ一つのすき間がゆるんでくれば
「まあラクになる感じがあるから、いいけど」緊張を促す交感神経の方も、リラックスすることを促す副交感神経の方に徐々に傾いていくという道理ではあります。「ゆるんでくるっていうか」
更年期の時期を曲線と直線を交えながらゆっくりゆっくりと焦らずにこえていった後の方には、そこまで強い反応は出づらくなっていく傾向にあります……
「……そうですか」
とくに女性においては更年期以降に発症することの多い四肢末端や関節まわりの骨の変形の予防にもなっていくのでは……と。
「更年期って」
「……ええ」
「第何次かの成長期みたいなもの」
「……ああ」
「なのかもしれないわね」
「……なるほど」
「もう何次かは忘れちゃったけど……」
「ははは」
「ああ……このままゆっくり眠れそう……」
「……まあまだ永眠は早いかと」
「永眠? そこまで言ってないでしょ……」
という口調もいくぶんなだらかになってきています。
「まったく……もう……おお……うお……」と呼息を立てながら眠ってしまったようです。「うぉー……おぉー……オォー」
もしかしたら吸息の方かもしれません。
「オォ~」
いずれにしても、ここ数週間は深い眠りに入れていなかったというので、このまましばらく寝かせておくことにいたします。
「オォ~……オ……」
もちろん治療は背骨で終わるわけではなく
「ん? あ……寝てたのか」
まだまだ骨張ることなく四肢末端まで続くのです……
「まあもうどうでもいいかな」
人生100年時代……おっしゃる通り、のこりの半分は反対の異性を生きてみる気分でもいいのかもしれませんし……
「性別とかどうとか」
性別なんていう境界線も更年期の身体線と共にこえて……

という線描はなんだかヒトの体のようにも見えてきますね……
「年代の割合とかもだんだんどうでもよくなってきているのって、更年期があけたってことなのかしら? なのかな? かな? な? だよな? だぜ?」