case.23  治療家の養生

 当院の休院日は、毎週木曜と日曜・祝日となっております。日ごろからご来院いただいているみなさんには申し訳なくも思っておりますが、きちんと週二日はお休みを頂きたく感じております。

「……あぁ、ほんとはぼくも休みたくはないんだよなー」

 というのは、ショートショートを前にしているからわざとらしく吐いているセリフではなく

「……毎日治療していたいんだけどなー」本心です。「……だけどなー」

 というように、休院日のわたしは、言葉尻の方もストレッチのようにのばしていることが多いです。

「……ちゃんと休んでおかないとなー」

 実際にストレッチをしたり、散歩をしたり、ランニングをしたり……

「……効くなー」

 もちろんハリ灸もします。

「……ここのツボー」

 自分で自分に施すこともあれば

「……あー」

「そうですか、そんなに効きますか、ここのツボ」

「……ええ」

 というように、わたし自身が患者さんになったりもします。

「普段のお仕事はデスクワークでしたよね?」

「……ええ、まぁ」

 同業者である素性をあかすと面倒くさくなってきそうなので

「どんな感じのデスクワークなんですか?」

「……まぁキーを打ったり・・・・する」

 というような仕事にとどめておいたりもします。まぁ似たような所もあるのかもしれませんが

「キーってパソコンの、ってことですよね?」

「……ええ」わたしが普段打っているのは、人体です。「……ちょっと違いますけど」

 と返したとたんに、キーじゃないパソコンって何かありましたっけ?   と反射的に相手の方もきき返してきましたが、治療家としてのルールでもあるのかもしれません。

「すいません、ちょっと問いつめてききすぎちゃいました」となかなか返答せずにいたわたしに一声かけてから、体位の変更を告げてきます。「では、次はうつ伏せになってください」

「……はい」

 と返事をして顔をベッドに埋めた後は、再び言葉尻をのばしだします。

「……はーいー」

 今日は週二日の休院日なのです。

「……はー」とベッドの口元に空いている構造の穴から、下に息を吐ききってから「……いー」

 というような音の鳴る酸素を吸いこんでいきます。

「……はーいー……はーひー……ふぁーふぃー」

 というように自分自身の呼吸のリズム、ひいては心臓の拍動のリズムをとり戻していくように、音の方ももはや文字では表しづらい形態のものへと変容していきます。

「…faー」ヒトという動物のもつ本来の声のように感じられてくるくらいです。「……fiー」

 普段患者さんの体を触り続けていると、症状をいわばその他人の体のリズムに自分自身のリズムがもっていかれてしまうことがたびたびあります。

「……huar」

 患者さんのカゼをもらったり、肩コリをもらったり、ウツをもらったり……というようなことが、治療家としてハリを打ち、その打ったハリを伝って体の奥底からも込み上げてきて……

※ 続きは『本を気持ちよく読めるからだになるための本――ハリとお灸の「東洋医学」ショートショート』(晶文社)でお楽しみください。