case.4 刺さないハリ
「いッツ」 「んおー」 「アウチ」 「おうッ」 「どひゃ」 「イエィス」
ハリを受けて思わず漏れでてしまう声には、100人いれば100通りあると言っても過言ではありません。これは声の個人差以前の感度の個人差でもあります。釘のように太いハリを刺されても全く動じぬ人がいれば、毛のようなハリで奈落に落とされたかのごとき悲鳴をあげる人もいます。
どの時点で人は反応を示すか――
「ぁぁぁぁぁぁぁぁあ?」 「あ?」 「全然痛くねえじゃんハリって」
――という感度には、個人差以前に、1個人の中にも100通りもの差が存在すると言っていいでしょう。
「しゅばっぐんづぁーもんどぃやぁーッ」
〝 はじめてのハリ 〟 も感度を左右します。
「しゅばっぐんづぁーもんどぃやぁーッ」
わたしがこの患者さんを診てまず驚いたのは、このオリジナリティあふれる悲鳴でしたが
「しゅばっぐんづぁー」
すぐに感度の方の問題へと移っていきます。
「もんどぃやぁーッ…先生」
まだハリを刺していないのです。
「先生、先生!」
正確には、 〝 鍼管 〟 というハリを通すための管を、背中にあてただけなのです。
「きついです!」
日本のハリというのは、無痛をモットーにしていて、鍼管もその工夫の一つです。ハリをいきなり刺すのではなく、管を皮膚にあててトントン挨拶をしてから、ハリを中から通すのが常なのですが
「ムリです!」
〝 挨拶 〟 の段階で新聞の勧誘のように断られたのです。
「自分にはムリです!」
このステンレス製のひんやりとした 〝 鍼管 〟 をハリと思いこんだようです。
「もっと加減して下さい!」
※ 続きは『本を気持ちよく読めるからだになるための本――ハリとお灸の「東洋医学」ショートショート』(晶文社)でお楽しみください。