case.10  浅いハリ ―― 深いハリ

「浅すぎて何にも感じないようなハリにカネなんて払いたくないし」自分が患者としてハリを受けていた頃のお話です。今回はかなり個人的なお話になると思います。「深すぎて痛い拷問みたいなハリなんかわざわざ受けたくないし」

 今思うと、かなりワガママな患者だったようにも思われてきますが、いろいろな鍼灸院に受けに行ったところで、自分の体質に合うハリが見つからなかったのだから仕方がありません。

「だからハリはいつまで経ってもマイナーなままなんだ」

 というようなハリに対する大方の世間のイメージにも理解を示しつつ

「でも、いつまで経っても残り続けてはいるんだよな」

 というような事実には目を背けるわけにはいきません。少なく見積もっても二、三千年以上は残り続けているのです。

「あぁ~♪ やっぱりハリは効くなぁ~♪」というように歌でもうたいだしかねない調子で絶賛する人も、ちらほら目の前に現れてくることもあります。「カゼにも効くし~♪ 筋肉痛にも効くし~♪」

 というようなあんばいの賛辞を耳にするたびに、そのハリを行なっている鍼灸院を訪れてみるのですが、自分の体には 〝 浅 ―― 深 〟 のどちらかに振りきれてしまうハリばかりです。

「……はぁー」

 テレビや雑誌などで見かけた治療院に行ってみても、同様の結果です。

「……あぁー」

 というように続いていくため息が、ある地点で止まり、一件落着を迎えるというようなハッピーエンドは、今回のこのお話にはございません。

「……あぁー」

 あくまで自分一人の個人的なお話として残り続けていく呼吸の吐息です。

「……あぁー」

 自分自身が治療する側に回った今現在も続いています。

「……あぁー」

※ 続きは『本を気持ちよく読めるからだになるための本――ハリとお灸の「東洋医学」ショートショート』(晶文社)でお楽しみください。