case.17 保険
「保険って使えないんですか?」というような質問をされることがたびたびあります。「使えたら、ずいぶん金銭面でもラクになるんですけど」
それはその通りでしょう。
「ラクになるのが身体面だけじゃなくて」
「……っていう意味ですよね」
「わかっているんじゃないですか、先生」
「……ええ、まぁ、そうで……」すけど……という言葉尻に噛みついてくるような勢いで、だったら保険を使えるようにしてくださいよッ! と凄んできたりもしますが……「……それ」
「ん? 〝 それ 〟?」
「……それ……その要求……は」
「〝 その要求 〟?」
「……国の方に言ってくださいよ」
というように返すこともあるのですが、いくらそれまで凄んでくるような熱量でしゃべり続けてきた患者さんでも、そのままの熱量で国にまで言いつのる人はなかなかいません。
「……国」
あくまでここは〝 国 〟 という領土の中にあるのです。
「……そうです。国です」
〝 国 〟 にはお世話になっていることが多々あります。
「まぁ、なら、しょうがないですね」
国が決めていることならしょうがない……というように声のボリュームを落としていって、結局みずから話題を変えていくような患者さんがほとんどなのですが
「でも」ここからがこの患者さんはちょっと違いました。「保険が使える治療院とかもあるじゃないですか?」
「……あぁ」
「ハリとか灸とかも」
「……はい」
「ありますよね?」
たしかにございます。
「あれって」
「……はい」
「国がどうこうって話は関係ないですよね?」
「……いえ……」とだけとりあえず返した後の言葉は、わたしの方でもうまくすぐには継げません。「……そのぅ……」
「それとも、そういう鍼灸院は国とうまいことつるんでいるとでもおっしゃりたいんですか?」
話の向かう先が少し鋭く尖ってきているようでもあり
「国の方針にここの鍼灸院は合わせられないから」
その矛先がわたしに向けられてきているようにも感じられてきます……
「国の方針にここの医療施設は合わせられないから、保険は使えないってことなんじゃないですか?」
まさしくハリの尖端のように、わたしの方に向かってきます。
「国の方針に逆らっているから」
〝 鍼 〟 というより、この 〝 方針 〟 という言葉の中にある 〝 針 〟 の方が合っているかもしれません。
※ 続きは『本を気持ちよく読めるからだになるための本――ハリとお灸の「東洋医学」ショートショート』(晶文社)でお楽しみください。